2017年11月20日月曜日

市場

家の近くに市場があった。
「いちば」と読む。
もしかしたら「しじょう」だったのかもしれないが、僕たちは「いちば」と呼んでいた。

コンクリート打ちっ放し、と言えばお洒落な感じもするが、実際は薄汚れたコンクリの建物だった。
薄暗い中に幾つか店が入っていて、肉屋やら魚屋やら、そういったいかにも「昔ながら」というような趣の店ばかりだった。
そしてどの店もお婆さんが白い蛍光灯の光の下で、時たま来る客の相手をする以外は、世間話をしたり、ただ天井やら部屋の隅やらを眺めていた。
お爺さんはいなかったような気がするが、覚えていないだけなのかもしれない。

そんな市場に僕は友達と中高の6年間よく通った。
テスト期間や夏休みや、時間があるときには決まって市場の中にあるうどん屋でカレーうどんを食べた。
うどん屋は背中の曲がったおじちゃんと元気なおばちゃんが二人で回していて、僕らはカレーうどんの大盛りに七味をかけて食べるのが習わしだった。
時間によってはもううどんの麺が出切っていて、おじちゃんが「別の麺でもいいか?」と聞くので、そういう時は仕方なくカレー蕎麦や、カレーきしめんを食べる事になった。
カレー蕎麦はもちゃつきが強く、カレーきしめんはきしめんをべらべらする度にカレーが飛び散った。

うどん屋の隣には駄菓子屋があって、そこで駄菓子を買って、友達の家でゲームをしながら食べた。プラスチックの柔らかい容器に入った、洋ナシ型のチューペットのようなジュースを買って、あえて底に歯で穴をあけてて飲んだ。
母は汚いからやめろと言ったが、その飲み方は6年続いた。
あとは適当に安いチョコやらガムやらを買って食べた。
水に入れるとコーラやソーダになる粉薬みたいなやつを、そのまま口に流し込むのもよくやった。口の中が泡でぶくぶくになって楽しい。

そんなことを犬山の駄菓子屋を見て思い出した。
市場はもうなくなってしまって、代わりにスギ薬局が建った。
そこでカップ麺を買ってきて家で食べた。うまかった。

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