2017年11月9日木曜日

鏡ヶ池①

「鏡ヶ池にはアリゲーターガーがいる」
俺は鉄板ナポリタンで口の周りを赤く染めながらそんな話を聞いた。
先週の木曜、大学側の喫茶「Cal:BO」でのことだった。

「前に名古屋城のお堀で一匹捕まえられただろ。実はお堀にガーを逃したやつと、うちの大学の池にガーを逃したやつは同一人物らしい」
ジェノベーゼを教科書どおりスプーンの上でフォークに巻きながら山岸が続ける。
二限の授業を抜け出してランチにスパゲッティと洒落こんだだけあって、Cal:BOの店内に山岸の通る声がよく響いた。

「一体誰にそんな与太話を聞いたよ」
俺は吸いこむようにして最後の麺を飲み込んだ。
ずるずる音を気にしなければ人間はこれほど早くパスタが食べられるのだ。
常識に縛られた食べ方しか出来ない山岸の皿には、まだ半分以上ジェノベーゼが残っている。俺は心の中で勝ち誇った。

「信頼できる情報筋からだよ。なんといっても俺はお前より友達が多い」
山岸は巻いたパスタを口に運ぶが、フォークから飛び出したパスタの先が口の横に緑の線をつける。不器用なやつだ。

「まぁ要するに、鏡ヶ池のガーはお堀のガーの兄弟らしい。そこで一つ頼みがある」
山岸は3枚目のナフキンを引き出して顔を拭く。
食べ終わる頃にはナフキン立ては空になるのではないかと思われた。

「頼みとは一体なんだ」
俺は少し警戒した。前回の色々が脳裏をよぎる。

「なに、そんなに大したことではないよ。君にぴったりだと思う」
そう言って、山岸はナフキンを放った。

「鏡ヶ池のガーにことづけを頼む」

丸められたナフキンがテーブルを転がった。


鏡ヶ池②へ

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