2016年3月17日木曜日

ラウンジ 3/16 昼

「孤食だなんていうが」

僕が来る前にすでに食事を終えていただろう老人は、誰にともなくボソリと言った。

昼のラウンジ(ラウンジというには少しばかしくたびれ過ぎているが)には、時々昼飯を持ち込んで食べに来る。

その老人は窓際の一番端の席、柱時計の横で、もしゃもしゃとやっているのが常であった。

「一人の食事ってのは神聖なもんだ」

おそらく弁当を持ち込んだのだろう。老人の前には銀色の昔めいた箱が置いてあった。

「朝飯はこれから始まる1日のに思いをはせるんだ。炊きたての白米に焼鮭を一箸分のせて、口に運びながら、1日の思案をするんだな」

老人はここでいったんつぶやくのをやめ、魔法瓶から緑茶をこれまた銀色のコップに注ぎ、ズーズズッとすすった。
(つづく)

ラウンジ 3/16 昼

「孤食だなんていうが」

僕が来る前にすでに食事を終えていただろう老人は、誰にともなくボソリと言った。

昼のラウンジ(ラウンジというには少しばかしくたびれ過ぎているが)には、時々昼飯を持ち込んで食べに来る。

その老人は窓際の一番端の席、柱時計の横で、もしゃもしゃとやっているのが常であった。

「一人の食事ってのは神聖なもんだ」

おそらく弁当を持ち込んだのだろう。老人の前には銀色の昔めいた箱が置いてあった。

「朝飯はこれから始まる1日のに思いをはせるんだ。炊きたての白米に焼鮭を一箸分のせて、口に運びながら、1日の思案をするんだな」

老人はここでいったんつぶやくのをやめ、魔法瓶から緑茶をこれまた銀色のコップに注ぎ、ズーズズッとすすった。
(つづく)

2016年3月9日水曜日

アイスクリームバー 3/9 昼下がり

雨が降る昼下がり、どこにも出たくないようなこんな日に、僕はアイスクリームバーに来ていた。

普段は注文しないが、なんとなく今日はマンゴーソフトを注文したくなった。

アイスクリームバーといっても、屋台には違いないのである。

ビーチパラソルのついた丸テーブルで雨をしのぎながら、完璧な渦巻を描いたソフトクリームに口をつけた。

地面ではねた雨がすそを濡らしていく。

「なんだってこんな時に」

僕は自分でやってきたのにも関わらず、憎らしそうにそうつぶやいた。

別になんだって良かったのだ。アイスクリームでなくとも。

いや、逆かもしれない。なんであっても、今の気持ちには足りなかった。

ちょっとした公園の一角のその店には雨の日らしく客は一人もいなかった。

いや、そうではなかったらしい。

隣のテーブルの下に、小さな三毛猫がいた。

どうやらひどく雨に打たれたらしい。毛はぐっしょり濡れて、ひげからは水滴がしたたっていた。

しばらくその猫を見ていた。

そいつは僕の事を警戒しているようだったが、濡れた体に辛抱できなくなったらしく、近づいてきた。

「お前も災難だったな。こんなに雨が降るなんて、朝は思わなかっただろ」

僕はそういうと、カバンからタオルを取り出して猫を拭いてやった。

自分用のタオルだったが、なんだかこの猫にあげてもいい気がした。

体の濡れが幾分かマシになると、猫は僕の腕に身を寄せてきた。

猫と僕との二人だけが、この雨の中で外を出歩いているような気がした。

溶けかけたソフトクリームを口に放り込むと、僕は静かに独り言を言い始めた。

いや、独り言ではなかった。聞いてくれる相手がいたのだから。

どれくらい時間がたったろうか、ひととおり独り言を終えたころ、急に雨が止んだ。

そればかりか、雲間から光が差し込みはじめ、辺りは急に明るくなった。

「雨が止んだな。やったじゃないか」

僕はそういいながら、晴れはじめた空から猫へと目を移した。

猫はもういなかった。

遠くに猫の後ろ姿が小さくなっていくのだけがかろうじて見えるだけだった。


なんだか僕は虚をつかれたような気がした。そしてそれから少し微笑んだ。

どうも僕は猫に感謝を言った方がいい気がしていた。

(つづく)