僕が来る前にすでに食事を終えていただろう老人は、誰にともなくボソリと言った。
昼のラウンジ(ラウンジというには少しばかしくたびれ過ぎているが)には、時々昼飯を持ち込んで食べに来る。
その老人は窓際の一番端の席、柱時計の横で、もしゃもしゃとやっているのが常であった。
「一人の食事ってのは神聖なもんだ」
おそらく弁当を持ち込んだのだろう。老人の前には銀色の昔めいた箱が置いてあった。
「朝飯はこれから始まる1日のに思いをはせるんだ。炊きたての白米に焼鮭を一箸分のせて、口に運びながら、1日の思案をするんだな」
老人はここでいったんつぶやくのをやめ、魔法瓶から緑茶をこれまた銀色のコップに注ぎ、ズーズズッとすすった。
(つづく)
0 件のコメント:
コメントを投稿