2017年11月24日金曜日

勤労感謝祭②

勤労感謝の日、とはすなわち収穫祭のことであり、新嘗祭と呼ばれる宮中祭祀の一つである。天皇陛下が五穀の新穀を天神地祇に勧め、また自らそれを食し、その年の収穫に感謝の意を捧げる日であったが、戦後、GHQの指導のもとに勤労感謝の日と改められ、現在は勤労とは言いがたき学生たちに無闇矢鱈に祝日という名の休日を満喫せしめている。

「やけに詳しいじゃないか。ウィキペディアでも読んだかい?」
山岸がコーヒーを飲み干した紙コップをゴミ箱に向かって放り投げる。
コップはゴミ箱で跳ね、寝ていた学生に当たった。が、起きる気配はなかった。

「勤労感謝の日というのは分かるが、感謝祭というのはなんだ。オールスター感謝祭みたいなものなのか」
「まぁそんなようなものさ。島田紳助はいないがね。もともと俺が誘われていたのだが、残念なことにどうも都合がつけれず頭を悩ませていたところ、運良く暇を持て余した友人の存在を思い出し、はるばる学食まで馳せ参上したというわけだ」

山岸はそう言いながらチラシの隅を指差し、
「勤労感謝の日にこの場所に行ってくれ。ただ人数合わせのようなものだから、別に特段なんの用意もいらない。おそらく多少はつまむような物も用意してあるだろう。何か聞かれたら山岸の友人だと言えばこと足りる」と続けた。

「勝手に話を進めているところ悪いが俺にも用事というか、色々と準備しなければならないことがある。すまないが、断らせていただこう」

山岸は聞く耳を持たぬという様子で、ささと荷物をまとめると、
「今更クリスマスに向けて何かしようと思っても遅いさ。遅いのに何かを成そうとしても焦り空回りろくな事にならないよ」と憎たらしく言い、最後に
「それにたぶん感謝祭には女性もいる。そちらの方が芽があるかもしれないよ」
と不敵な笑みで言い残し学食を去って行った。



ーーーーーー

チラシに書かれた情報はわずかで、分かったことといえば「勤労感謝祭」というイベントが勤労感謝の日の夕方にN記念館の地下で開かれる、ということのみであった。

N記念館には何度か散歩がてら入ったことがあるし、学内の講習会で上階を訪れたこともある。しかし地下があるという話を耳にしたことはなかった。

そのためなんとなくチラシ自体が胡散臭く思え、行くつもりもさらさらなかったのだが、それは晩秋の寒さゆえか、普段の生活で女性と交流する機会の少なさゆえか、人恋しさが募った俺の中で「女性もいる」という情報の価値が高まり高まり、気づくと勤労感謝の日の夕方、俺はN記念館の前に立っていた。

さて、正面玄関から入ろうと思い自動ドアの前に立つも何も起こらない。
ぽんぽんと跳ねてみるもドアはしんとして動く様子はなかった。
どうやら一般開放されている時間は過ぎ、自動ドアには鍵がかけられているようであった。
「さては山岸のやつ、俺をたばかったな」
俺は心優しい友人(俺のことだ)を騙した悪童に憤慨し、即刻帰宅し湯を沸かしココアを飲むほかにないと思い、その場をたち去ろうとした。その時だった。

ふいに後ろから声がした。

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