2017年12月11日月曜日

クワイ

今まで生活の中で全く意識していなかったものが、ある日を境に立て続けに目に飛び込んでくることがある。
「え!すごい偶然!」
と思ってみるが、実のところ普段から身の回りに頻出していたものに、ちゃんと目を向けていなかっただけだったりする。

そんな物の中で、この時期になると決まって思い出すものがある。

クワイである。

ある日、友人に買い物に誘われた。
「今度柳橋に行くんだけど、行かん?」
なんでも家族で年末年始の料理の材料を買いにいくらしい。
せっかくなので僕もついて行かせてもらう事にした。
早朝、友人の父の車で柳橋に向かう。
僕は友達とゲームや漫画の話をしながら、少しばかりのドライブを楽しんでいた。

友達の家から名古屋駅まではそれほど遠くなく、30分もしないうちに柳橋の近くまでやってきた。
「そういえば今日は何買うん?」
僕はふと思い浮かんだ疑問を友人にぶつけてみた。

友人は外を眺めながら、
「んー、まぁ値段にもよるけど魚とか昆布とか」
と返してきた。
その時、友人の母が会話に入ってきた。
「あとはクワイとかね」

KUWAI....??

僕の頭に疑問符が連続タップされる。
(クワイとはなんだろうか、そんな物は聞いたことが無いぞ)
頭の中で様々な考えがポップコーンメーカーのように飛び跳ねた。
(クワイとは食べ物なのだろうか、それとも年末年始に使うしめ縄的なサムシングなのだろうか...)
しかし、そんな物なら今までに聞いたことがあるはずだ。
逆に奇異な習わしであるなら、当然のように自分の前でクワイなどと言わず、もっと人の目を忍んで内々で取引をしているはずである。

(あっ、そうだ!)
僕は思いついた。
(きっと聞き間違いだったんだ!)
思いついた最大限の解決策であった。

「あークワイも毎年使うしね」
僕がひねり出した「聞き間違え案」は友人の返答によって棄却された。

困った。どうやらこの世にはクワイというものが存在するらしい。
このままでは「クワイも知らない世間知らずの田舎者」の烙印を押されてしまう。
それから僕は「あー知ってるよ、クワイね」という態度を取り、なんとかその場を凌ぎ切った。

僕はそのクワイ事件から一週の間にクワイという文字を3度見る事となった。
僕は驚嘆した。
なんということだろうか!クワイはこれほどに世の中に溢れていたのだ!!

僕は憤った。クワイという名前をしておきながらなぜ芋なのだ。
里芋も山芋も薩摩芋もちゃんと芋と名乗っているではないか。
芋を名乗らないのはキャッサバ君ぐらいのものである。
外国かぶれも甚だしい。
芋とついていたならば、僕も「はいはい、芋ね」と振る舞えたではないか。

しかし、それから10年ほどたちWikipediaをふと見てみたら、「桑芋」又は「河芋」が転じたという説を目にした。
なんということだ、「クワイ」はあだ名だったのだ。
僕はあだ名をつけられただけの芋を不当に迫害していたのだ。
僕は謝罪の意を込めて今日の記事を書くに至った。

僕は君の事を誤解していたよ、クワイ。
24年間食べたことがないけれど、いつか食べてみようと思うよ。

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