2018年1月14日日曜日

忘れ物センター⑥

忘れ物センター①→→
忘れ物センター⑤→


「さてさて、どの棚ですかねー」
そう言いながらも織部女史はどんどんと進んでいく。
扉の向こうは貯蔵庫のようになっていた。
中央を通路が奥へと走っており、そこから左右に細い通路が分かれている。その脇道には高い棚が両側にそびえていて、通路は棚の間の谷川のようだった。

「あ、ここですね。この通路です」
いくらか通路を進んだあたりで女史が告げた。
通路のコンクリート床にG8.46と彫られている。

「G8.46.2ですので、二つ目の棚です。ほら、そこそこ」
女史の指さした方を見る。
大きな棚の下から二段目。俺の名前が書かれた紙箱がいくつか並んでいる。
女史はその一番左の箱を引っ張り出した。
「最近のものでしたらこの箱に入っていると思います。私は向こうを向いていますので、どうぞお探しください」
「なんで向こうを向くんです?」
「『ぷらいばしー』保護のためです」

女史はそう言ったが、自分たちで集めて保管しているのに、ぷらいばしーも何もあったものではない。
そう思いながら、俺は箱のふたを開けた。

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紙箱の中には小物やらなんやらが、一緒くたに詰め込まれているようだった。
そしてその一番上に、くたびれて合皮が所々やぶけた茶色の財布が置かれていた。

「あぁ!これだ!これです!しかも中身も...入ってるっ!!」
「おめでとうございます。いやー見つかってよかったですねー」
俺は今すぐにでも女史の手をとって踊りだしたかったが、婦女の手を取るだけのテンションまでは持っていくことが叶わなかった。俺の無垢な心の声が邪魔をした。

「本当にありがとうございばすっ!!」
それでも俺は涙声になりながら女史に感謝の意を告げる。
今になって思えば、彼女たちが回収しなければもっと早く見つかったに違いないのだが。

「いえいえ、喜んでもらえて何よりです。せっかく遥々こられた訳ですし、もし他にも回収したいものがあれば持って行ってもいいですよ」
女史も心なしか喜んでいるように見えたが、たぶんそれは俺の感情が昂っていたためである。
「えっ!いいんですか!!忘れ物センターはいいところですね!!」
今になって思えば、そもそも俺の物であるはずなのに、持ってって良いも悪いもあったものではないのだが。

せっかくなので箱の中を漁ることにした。
そこには混沌が渦巻いていた。
講義中に失くした消しゴム、いつの間にか抜け落ちたイヤホンのキャップ、テスト前に必死で探したテスト範囲をメモしたルーズリーフ......
...こんな小物をどうやって俺の物と特定したのだろうか。

「この箱には他に必要なものはなさそうです...ね」
あまりにも謎深い小物のラインナップにより、俺のテンションは平常時に戻っていた。
「そうですか、隣の箱もどうぞどうぞ」
既に俺の前には紙箱が二つ置かれていた。

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女史の勧めを受け、出された箱を次から次に漁ってみたが、どれも中身は最初の箱と似たり寄ったりで、必要なものは特に見つからなかった。
ただ、生徒手帳を見つけた時には、事務や交番をはしごした記憶が蘇り、「拾ったときに連絡してくれ...」という強い思いが湧いてきた。しかしこれもいらない。もう使えないし。

「こちらにも特には...あ、そこらへんの箱は別の方のやつですか?その黒いやつとか」
俺は棚の右端の方にあった黒い箱々を指さす。
「あぁ...あれはですね。ちょっと危ないかもしれませんが、見ますか?」
女史が尋ねる。
一瞬、彼女が薄く微笑んだように見えた。

女史の態度に何か含みを感じながらも、俺はうなずく。
「では、これを」
女史が右手をこちらに伸ばす。いつの間にか女史の手にはサングラスが握られていた。
よく見ると、いつの間にか女史は既にサングラスをつけていた。

「これは...?」
俺は訝しがりながらもサングラスを受け取り装着する。
「専用の保護眼鏡です。眩しすぎて目を傷めるといけませんので。サングラスではありません」
女史はそう言いながら黒い箱を引き出し、やや大袈裟な留め金を外した。

がちゃん、という音が、僕らのほかは誰もいない空間に響いた。


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