2017年10月30日月曜日

自由

昨日、書店で開かれたイベントに参加した。
併設されたギャラリーで、当日配られた文庫本を、静かな音楽の流れる空間で読む、という趣向のイベントである。
台風が近づいできた日のことであった。僕は半分壊れた傘を差し、書店へと出向いた。
古いアパートに入り階段を登る。2階の一室にそのギャラリーはあった。
会場はこじんまりとまとまった空間で、10脚ほどの椅子が散らばって置いてある。
受付で名前を言い、「紅茶か珈琲」という質問に「珈琲」と答えた。
席は自由らしい。壁際の机、その椅子に座った。
椅子に座ると白く塗った壁で視界が埋まる。白い厚塗り。
木でできた素朴な盆の上に一冊の文庫本が置かれていた。
すぐに予定された時刻になった。本を覆っていた紙を取り去る。

『メルヒェ ン  ヘルマン ヘッセ』

ぺらり、と表紙をめくる。
どうやら幾つかの短編が載った大人向けの童話集のようだ。
最初に置かれた童話を読み始める。

『アウグスツス』

部屋には静かに音楽が流れている。
風、雨下を走る車、部屋の隅で鼻をすする男。
はじめ耳に入って来ていた音が次第に遠くへと離れていく。

アウグスツス、愛を知らぬ少年の話

何篇かの童話を読み終えた時、店員が時間を告げた。
いつの間にか一刻ほどの時間が過ぎていた。

いつぶりだろうか。「本を読むように」と命じられた、命じられてないにせよ、そう仕向けられたのは。他の雑事に気をやらず、ただ本を読むことが許され、薦められたのは。

階段を降りアパートを出る。
雨はより強さを増して地面をうち、木は風にあおられて大きく揺れていた。

0 件のコメント:

コメントを投稿