忘れ物センター②→
古いエレベーターというのは実に情緒がある。
階数のボタンが丸い押し込み式だったりすれば、なおさらである。
乗っていると、「吊られている」ということを強く感じるものだ。
しかし、そんなエレベーターはほとんど残っていないものだ。
近くで見た事はないし、ましてや学内の、しかも図書館に残っているとは信じられない。
実際、実物を見るまで信じていなかった。
山岸からのメモはまさに殴り書きといった感じであり、何故か指令書となっていた。
「1.図書館の地下入口。人に見られるな」
図書館の地下入口は駐輪場の奥にあった。
関係者以外立入禁止、とは明示されていなかったが、明示せずとも分かれという雰囲気に満ち満ちていた。おそらくは搬出・搬入用であろう。
山と積まれたダンボールや紙束の間を抜けるように扉に手をかける。
ノブは重かったが、鍵はかかっていないようだった。
やおら、後方から声が聞こえる。紙束の陰にしゃがみ隠れる。
二人組の男がなにやら騒ぎながら自転車を置いて去っていった。
再びドアに手をかける、脚に力を入れドアを引いた。
「2.右左右。同上」
コマンド入力かと思ったが、どうやら道順らしい。
同上という事は、やはり見つかるな、ということだろう。
こんな辺鄙な扉から入ってきているのだ、迷ったという言い訳も確かにしづらい。
そもそも財布を探しているだけだったはずだが、もはや今の姿はさほど泥棒と違いがないのではないだろうか。
疑問は尽きなかったが、とりあえずコンクリート張りの通路を右へと入る。
コマンド表通りに次は左。
心配しなくても、人の気配はほとんどない。
が、ここで困った。最後の右に相当する道が見当たらない。
左には幾つかドアがついているのだが、右は壁が続くばかりだ。
そして廊下の端も壁しかない。
(山岸のコマンド入力間違いだろうか)
右の壁には古びたチラシが無数に貼られている。いつの物だろうか。暗がりの中、擦り切れた文字を解読するのは困難であったが、かろうじて「闘争」と読めた。
その時だった。
がたん。
音がした。
気のせいだろうか。耳をすます。
がたん
誰かいる。
左のドアの向こうだ。
自分の心拍数が急に上がったのが分かった。
音は少しずつ大きくなる。
……近づいてきている。
俺はドアから少しでも離れようと、廊下の突き当たりへと進む。
音の主は、もうドアの向こうにいるようだった。
がたん
ドアに手がかけられた気配がした。
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