忘れ物センター①→
「忘れ物や落し物の扱いについてどう思う」
俺が少し落ち着いたのを見て、山岸は近くのベンチに腰掛けた。
手にはまだ木の棒が握られている。初期装備か。
「『どう、と言われても』という顔をしているな。財布ならまだ分からないが、ほとんどの物は適当に段ボール箱にでも詰められて事務室の前に放置してあるだろう。持っていく時にも特に確認もされやしない。『どうせ取りに来ない』と考えているんだろうな。落し物だから、仮に誰かが持ち出しても苦情の入るわけでもない」
山岸はビニール袋から緑茶のペットボトルを出した。
木の棒を持ったまま器用にフタを開ける。
「そんな状態に憤った人間がかつて立ち上げたのが『忘れ物センター』だよ。だが、今やその存在を知る者は学内にはほとんどいない。にも関わらず、忘れ物・落し物の収集活動はずっと続けられていてね。おかげでセンターが出来る前よりも、落し物が見つからないことが増えたというのだから、困ったものだ」
山岸はやれやれた言った感じで肩をすくめる。
「やれやれじゃない。とにかくそんなセンターがあるっていうなら、とりあえずそこに連れて行ってくれ」
「まぁ、そう焦るな。そこにあるなら、まず誰かに持ち出されることはない。落し物としてきちんと管理してくれているはずだ。ただ管理はするが連絡はしてくれないのが欠点なんだけどね」
それじゃあ置き引きだろ!、という言葉が喉まで出かかったがぐっとこらえた。
「ただ、残念なことにこの後用事がある。これをやろう」
そういうと山岸はリング式のメモ帳に何かを書き殴ると、一枚ちぎってこちらに渡した。
忘れ物センター③へ
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